技術部の笹田です。Ruby インタプリタの開発をしています。先日、RubyKaigi 2017 のために、広島に行ってきました(その話はまた別途)。
本記事では、2017/08/30, 31 に弊社で開催した Cookpad Ruby Hack Challenge (RHC) の模様についてご紹介します。
短いまとめ:
- RHC を二日間で開催しました。当初想定していた以上に豪華なプログラムになり、いろんな成果が出ました。
- またやりたいです。ご期待ください。
2017/10/11 (水) の夜に RHC もくもく会を開催します( Ruby hack Challenge もくもく会)。どなたでもご参加できますので、興味があればご参加ください。
参考リンク
- 参加者によるレポート(ブログエントリは Google で検索した結果なので、抜けていたらこっそり教えてください)
- Rubyのなかを覗いてみよう!「Cookpad Ruby Hack Challenge」に参加してみた (池澤あやかさんによる参加レポート)
- Cookpad Ruby Hack Challenge に参加した話(shikugawaさんによるブログエントリ)
- "Cookpad Ruby Hack Challenge"に参加してきました(itiskjさんによブログエントリ)
- Ruby Hack Challengeに参加した(nownabeさんによるブログエントリ)
- 宣伝と、イベント開催の意気込みについての Techlife 記事
- イベント申し込みページ
- 参加者によるレポート(ブログエントリは Google で検索した結果なので、抜けていたらこっそり教えてください)
RHC の概要
Cookpad Ruby Hack Challenge は、Ruby インタプリタ(MRI: Matz Ruby Interpreter)に対して機能を追加したり、性能向上させたりする方法、つまり Ruby インタプリタを Hack する方法を、二日間かけてお伝えするイベントでした。細かい中身の話はせずに、最低限必要となる手順を一通り体験してもらう一日目と、自由にハックを行う二日目にわけて行いました。
イベント申し込みページにて6月末から7月末まで募集をしたところ、10人の定員に100名近くのご応募を頂きました。急遽、定員を5名追加し、15名定員としました。加えて、記事を執筆いただくために池澤あやかさんにご参加いただき、また弊社から4名の希望者が(サポート要員をかねて)参加しました。当日欠席は1名のみで、19名+私、という体制で行いました。
参加者とのコミュニケーションは Gitter を用いました。https://gitter.im/rubyhackchallenge/Lobbyという場所で連絡を行ったり、質問を受け付けたりしました。また、Ruby コミッタの集まる場所を https://gitter.im/ruby/rubyにも作り、Ruby の質問ができる状態にしましたが、遠慮したためか、参加者からの質問は、あまりありませんでした。
イベントの流れ
初日は基礎編、二日目は応用編という流れでした。
一日目は基本的に座学で、資料に沿って進めて頂きました。 解散が 17:00 と早いのは、私が保育園へお迎えに行かなければならないからでした。
二日目に、好きなテーマに挑戦してもらいました。また、その間にサブイベントとして、「まつもとゆきひろ氏 特別講演」「Ruby開発者との Q&A」を行いました。これらを開催するために、毎月行っているRuby開発者会議を、裏番組として同時開催してもらいました。
8/30 (水) 一日目
- 10:00 オープニング
- 10:30 ハックに必要となる事前知識の講義
- 12:00 ランチ
- 13:00 共通課題
- 16:00 発展課題の紹介と割り振り
- 17:00 解散
8/31 (木) 二日目
- 10:00 発展課題の開始
- 11:30 まつもとゆきひろ氏 特別講演
- 12:00 Ruby開発者を交えてのランチ
- 13:00 Ruby開発者との Q&A セッション
- 14:00 発展課題の再開
- 18:30 打ち上げパーティー
一日目 基礎編
https://github.com/ko1/rubyhackchallengeにある資料をもとに、説明を聞いてもらい、演習を行ってもらう、というように進めました。
資料をざっとご紹介します。
- (1) MRI 開発文化の紹介
- MRI の開発は、誰がどのように行っているのか、大雑把に説明しています。
- バグ報告の仕方など、一般的な知識も含んでいます。
- (2). MRI ソースコードの構造
- MRI のソースコードの構造を紹介し、演習として、MRI をビルドしてもらいました。
- 演習といっても、実際に行う手順は書いてあるため、その通りに手を動かしてもらう、というものになっています。ここで扱った演習一覧を抜き出します。
- 演習: MRI のソースコードを clone
- 演習: MRI のビルド、およびインストール
- 演習:ビルドした Ruby でプログラムを実行してみよう
- 演習:バージョン表記の修正(改造)
- (3) 演習:メソッドの追加
- 実際に、MRI に機能を追加していきます。
- 次のようなメソッドを、演習として追加してもらいました(手順はすべて記述してあります)。
Array#second
String#palindrome?
Integer#add(n)
Time#day_before(n=1)
- また、拡張ライブラリの作り方や、デバッグに関する Tips を補足しています。
- (4) バグの修正
- バグの修正方法と、バグの報告の方法について紹介しています。
- 次の二つのケースについて、具体的な話を紹介しています。バグ発見の技術的な方法に加え、心構えみたいなことも書いているので、そこそこ実践的な内容だと思いますが、どうでしょうか。
- 他の人のバグ報告を見る場合(
Kernel#hello(name)
という架空のメソッドを例に) - バグを自分で発見してしまった場合(
Integer#add(n)
という架空のメソッドを例に)
- 他の人のバグ報告を見る場合(
- (5) 性能向上
- 性能向上についての諸々の話を書いています。
- このあたりは、最後の方に書いたので、だいぶ雑になっています。演習もありません。
読むだけで進められるように書いたつもりなので、興味がある方は、読んで実際に手を動かしてみてください(読んでもわからない、という場合は、どの辺がわかりづらいか、こっそり教えてください)。
二日目 応用編
発展課題として、いくつか課題の例をあげておきましたが、これに限らず好きなことに取り組んで頂きました。ただ、こちらにリストした内容を選んだ人が多かった印象です。取り組んで頂いたテーマは、GitHub の issue でまとめてもらいました https://github.com/ko1/rubyhackchallenge/issues。
いくつかご紹介します。
Hash#find_as_hash の実装
Hash#find
の返値が配列なので、Hash を返す版が欲しい、という新規メソッド開発の挑戦です。が、1要素の Hash
を返しても使いづらい、ということに気づいたそうで、nice try! ということで、終わりました。
フレームスタックの可視化
VM の状態を可視化するために、各フレームの状態を JSON で出力する仕組みを作り、そしてそれを表示するビューア https://github.com/kenju/vm_stackexplorerを作ってくださいました。懇親会でデモまで行ってくださいました。一日でここまでできるとは。
help に --dump オプションを追加
ruby -h
で出てくるメッセージに不足があったので、足しましょう、という提案です。この挑戦を行ったのは Ruby コミッタの sonots さんで、さすが手堅い、実際に困ったんだろうな、という提案です。
なお、参加者に Ruby コミッタの sonots さんも混ざっているのは、サポート役としてお願いしたためです。後で伺ったら、曖昧にしていたことが多く、得るものは多かったということです。
Procに関数合成を実装
Proc#compose
という、二つの Proc
を合成する、いわゆる関数合成を行うためのメソッドを提案されました。一度試したことがあったそうで、C で書き直し、似たような提案のチケットにコメントとして追記してくださいました。コミッタを交えたパーティーでは、この仕様についていろいろと議論が盛り上がりました。
ビルドしたRubyでのGemのテスト
開発中の Ruby で、任意の gem のもつテストを行うことができる、という仕組みの提案です。私がほしーなー、と言っていたら、作ってくださいました。
最近の Ruby には bundled gem という仕組みで、いくつかの Gem をインストール時に同時にインストールする仕組みがあるのですが、それらの Gem のテストを簡単に行う方法がありませんでした。また、人気の Gem(例えば、Active Support とか)も、同様に試すには、一度インストールして、bundle
して、... といくつかの手順を必要としていました。この提案では、これらのテストを、Ruby をインストールせずに make
コマンド一発でできるようになります。MRI 開発者が(人気の)Gem を動かせなくなるような変更を入れる前に気づくことができるように(多分)なります。
サブイベント
二日目の途中に、Ruby 開発者会議で来ている Ruby コミッタに頼んで、下記のイベントを行いました。
まつもとさんゆきひろさんによる特別講演
大雑把に「30分でいい話をしてください」と依頼したら、いい話をしてくださいました。話の詳細は、池澤さんのレポート記事( Rubyのなかを覗いてみよう!「Cookpad Ruby Hack Challenge」に参加してみた )をご参照ください。
昼時だったので、発表を行ってもらった場所に隣接するキッチンで、社員の昼食を作っていました。料理しているところで発表するのは、多数の発表経験のあるまつもとさんでもさすがに初めての経験だったとのこと。
Ruby開発者との Q&A
Ruby 開発者を並べて、参加者および弊社社員を含めた質疑応答大会を行いました。RubyKaigi での企画 Ruby Committers vs the World の前哨戦でした。
パーティー
最後に、開発を終えた参加者の皆さんと、開発者会議を終えた Ruby コミッタが合流し、パーティーを行いました。
パーティーでは、二日目に行った挑戦を発表してもらいました。その場で、まつもとさんをはじめ Ruby 開発者と本気のディスカッションが発生していました。
まとめ
本記事では、2017/08/30, 31 に弊社で開催した Cookpad Ruby Hack Challenge (RHC) の模様についてご紹介しました。
参加者の皆様へのアンケートからは、良かったという感想を多く頂きました。 ただし、いくつか反省する点があり、次回以降で改善していきたいと思っています。
今回は(多分)成功したので、今後も続けて行ければと思っています。 初回だったので、まつもとさんに特別講演をお願いするなど、だいぶ力を入れてしまいました。 次回以降は、もうちょっと力を抜いていこうと思います。
参加したかったけど、定員オーバーで参加出来なかった方、そして、今回知って、興味を持たれた方、次回以降にぜひご期待ください。 調整次第ですが、出張して行うことも可能かと思います。 また、Ruby 以外にも広げられるといいですね。夢(だけ)は広がります。
本イベント開催にあたり、Ruby コミッタや、多くの弊社社員に助けて頂きました。 この場を借りて、御礼申し上げます。
最後にご案内です。フォローアップイベントとして、RHC もくもく会を弊社にて開催します(2017/10/11 (水) 18:30-、申し込みは Ruby hack Challenge もくもく会)。Ruby コミッタとして遠藤と笹田がサポートします。 RHC 参加者に限らず、Ruby のハックに興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひご参加ください。