クックパッド検索・編成部の五十嵐啓人です。今年から、クックパッドの検索エンジンの価値を最大化するミッションを担当しています。今回のエントリでは、昨年まで担当したエディトリアル部門での新コンテンツ立ち上げのSEO事例についてお話します。
離乳食や夏休みの自由研究コンテンツを通じたコンテンツ集客事例
近年クックパッドはレシピだけでなく、料理周辺の課題を解決するコンテンツを集めることに注力しています。昨年その中の小さな施策のひとつとして、夏休みの自由研究に料理を取り入れることを提案する「自由研究」、離乳食期の食の課題解決を狙った「クックパッド ベビー&ママ」という二つのミニチャンネルを公開しました。
いずれも、クックパッドの数千万人の利用ユーザー中、「小中学生を持ち自由研究に課題をもつユーザー」「乳児食を探したいユーザー」は相当に限定されます。そのため、情報が必要な人にコンテンツを届けるために、SEOが効率のよい集客方法として予想されました。
※クックパッド自由研究画面イメージ
※クックパッド ベビー&ママ画面イメージ
新コンテンツ進出時のSEO事例 〜コンテンツやワーディングの選択と効果分析手法〜
利用者がコンテンツにたどり着く際の情報の探し方を熟考
SEOを単にランキング上昇のテクニックと考えている方もいますが、SEOで最も重要なのはコンテンツを探す人と、提供者のギャップを埋めることです。そのため、情報を探す人のコンテンツの探し方を調べ、それにあったコンテンツを用意する必要があります。また、情報をどのくらいの人が探しているのか(または潜在的な需要があるのか)ということを見誤ると、徒労に終わるためこちらの見極めも重要です。
ターゲットが明確であれば、これは非常に簡単です。自由研究を例に取ると、コンテンツ名称と課題が同じため、多くの人が情報を探す際に利用する最重要キーワードは「自由研究」となります。
「自由研究」の課題を解決をしたい人のボリューム推定は、自分が規模を把握できているキーワードと対比させることでGoogle Trendから推測できます。
今回は当社で一番流入が増加するバレンタインと比較しました。下記グラフのとおりバレンタインを下回るものの、それなりの需要が期待できることが推測できます。
また、自由研究に興味がある人が、どのような課題を抱えているかも把握が必要です。 一番簡単に調べる方法としては、検索エンジンの関連キーワード候補を見る方法があります。
これを見ると自由研究の「ネタ」を探したいこと、また様々な「ネタ」情報がある中で「小学1年生」「6年生」「中学生」などに情報をフィルタしたいことがわかります。これらの情報をもとに、計画していたコンテンツの内容や、「自由研究」で検索した場合の競合のコンテンツ特性などを含め方向性を決定しました。その結果「主に小学生で夏休みに、自由研究のネタ出しに困っている人に向け、料理観点から自由研究の題材を提供する」というコンテンツで他社と差別化し、サイト内の各種ワーディングやコンテンツ構成でもこれらのキーワードに表記を統一しました。
Ginzametricsを利用した注目キーワードの追跡
SEOと集客上の関係を見える化するため、当社では、Ginzametricsというツールを利用しています。Ginzametricsは非常にマニアックなツールですが、指定したキーワードの順位監視や競合の情報などをわかりやすく算出してくれる強力なサービスです。
今回も、事前に当社で定めたターゲットキーワードの他、「自由研究」関連でボリュームの多いキーワードを事前にGinzametricsのキーワード監視リストに追加しています。
監視に追加したキーワードとそのねらい
# =>ビッグキーワード 自由研究 # => 2語かけあわせでボリュームが大きく、特にフォーカスしたもの 自由研究 ネタ 自由研究 小学生 自由研究 夏休み 自由研究 実験 # => 2語かけあわせでボリュームが大きいが、フォーカスはしていないもの 自由研究 中学生 自由研究 まとめ方 自由研究 テーマ # => コンテンツ制作に当たり著名人を起用したため パックン パトリックハーラン # => クックパッドが自由研究コーナーを作ったということを知っている人のためのナビゲーショナルクエリ 自由研究 クックパッド # => ボリュームは少数だが最低限どこの競合にも負けたくないキーワード 自由研究 料理
SEOでの流入が獲得できるまでどのくらい時間がかかるか?
一般的に新コンテンツを立ち上げて検索エンジンに評価されるまでどのくらいの時間がかかるのでしょうか?残念ながら具体的な流入数までは公開できませんが、「自由研究」を立ち上げた際の、検索順位、集客数、またキーワード検索数のボリューム推移をGoogleTrendから取得した数字をプロットしたのが下記のグラフです。
※青棒はGoogle Trendから取得した「自由研究」の同期間中のキーワードボリューム比率(一番下を0、一番上を最大の100)。緑線は、今回ターゲットに設定したそれぞれのキーワードの平均検索順位です(一番下は50位または圏外、一番上は1位)。 赤線及び、オレンジ線はコンテンツにランディングした流入数の推移です(自然検索以外の流入も一部含みます)。
コンテンツが公開されたのは7/23ですが、検索順位が最も高くなったのは8月下旬となりました。コンテンツ追加やワーディング・タイトル調整、リンク構造などの施策を続ける中で、流入が極大化されるまで1カ月近くを要したことになります(集客施策としては、あと1月早く施策を準備をしていればもっと成果を挙げられたということがわかります)。なお、離乳食向けの情報を提供する「ベビー&ママ」でも、最終的な順位上昇やトラフィックに大きな変化が見られるまでに1カ月近くを要しました。その他、こちらのグラフからは検索ボリューム数と、順位、そして流入の3つの関係など非常に面白い情報が読み取れると思います。
また、以下はUSの調査会社Caphyonが公開している、Googleの検索結果ランキングごとのCTRです。これをみると上位10位以内では、ランキング変動があると、流入数も変化がありそうですが、#10以下では多少順位変動があっても流入数の変化を観測するのは困難であることが伺えます(なお類似の調査は他にもあり、この結果はその中でもかなり楽観的な数字です)。
この施策ではGinzametrisを利用して、1ヶ月の間、総合的な検索ボリューム、検索順位、流入数の3つの指標をトータルで把握することで、冷静にSEO施策の効果分析を進めていくことができました。いずれの情報が欠けても、Googleという非公開情報を相手に、粘り強く施策を打つのは心が折れてしまったことでしょう。
クックパッドのSEO体制
今回当社でのSEO事例を紹介しましたが、今回のように集客でSEOを強く意識するサービス運用事例は当社ではあまり事例がありません。普段クックパッド内でSEOがどのような体制で実施されているか、最後に簡単にご紹介しましょう。
当社は検索エンジンから大きな集客を得ており、SEOが比較的成功しているサービスのひとつとされていますが、社内で専属のSEO担当者はおりません。Google事情に比較的詳しく、サービス利用者数増加に責任を持つ私がサポートをすることもありますが、基本的には各現場でできる「テクニックに依存しない本質的なSEO」を志向しています。そのため、当社が重視するのが下記の2点です。
- 何れかの分野でNo.1になるコンテンツを集める、作る
- ユーザーファーストなサービスであることを自問し続ける
当社の強みは「レシピ数が多いこと」と言われますが、これを生み出すのは「楽しみながらコンテンツを寄せるユーザーのコミュニティ形成」です。各サービス担当者にはコミュニティ形成が競争力の源泉であるという考えが企業文化として共有されています。ユーザーが楽しめるサービスの開発を目指した結果として、競合に負けない量や質、更新頻度の高いコンテンツが生み出され、結果的にクローラーにも高く評価されます。
また、ユーザーが使いやすいサービスを作ることは結果的に、GoogleのSEO評価指標を高めることとも合致します。リンク構造の最適化やページロード時間の短縮、コンテンツ以外の広告などの要素でページを埋め尽くさない、わかりやすいタイトルをつける、どんな環境でも同じ内容が表示できるようにするといったことはその一例でしょう。
当社も細かいSEOテクニックを使っていないわけではありません。また、コード変更の際のGithub上でのPull Requestに目を光らせ修正をする場合もあります。しかし、SEOテクニックによるページの価値向上は、上記のような本質的なサービス作りを実施した上で、なお必要なときに限って行えば良いと考えています。専任の担当者がいればもっと良くなるところはたくさんありますが、過剰にSEOを意識した業務せずに、結果的にクローラーに評価されるサービスを作れる文化形成に努めています。
まとめ
いかがでしたでしょうか? 昨年の実例を通して、SEO集客を前提としたコンテンツ作成時の、効果分析について手法や、必要な期間など、施策の進め方のイメージをお持ちいただけたと思います。いずれも基本的な内容だと思いますが、実際のワークフローと施策評価も含め公開されている事例は少ないため、読者の方の業務の何かヒントになれば幸いです。
クックパッドでは、さらにユーザーさんの料理の課題を解決できるサービスになれるよう、様々なコンテンツを作り・集め、ユーザーさんが探しやすい形にアレンジし、提供していきたいと考えています。