はじめに
突然ですが、皆さんは「組織における課題」について考えたこと、意識したことはあるでしょうか。 「組織における課題」なんて言葉を使うと、たとえば
- 事業戦略の方向性
- 人事評価制度
- マネジメント層の育成
など、少し高いレイヤーの話が思いつくでしょうか。 ともすれば自分とは無関係な話のように思えるものかもしれません。
一方で、このようなものはどうでしょうか。
- なんとなく、最近社内の空気変わった気がする
- なんとなく、隣の部署が何やってるかよくわからない
このような、もやっとした感覚、は普段働いている中で感じたことがある人も少なくないかもしれません。 こういった「具体的な何か」というより「抽象的な違和感」を私たちが抱くことも組織における課題といってもいいかと思います。
このような組織における課題、違和感を認識したとき、私たちはどのように向かい合うべきでしょうか。
- 経営陣やマネージャに相談する
- まぁ、会社はそういうものだよなと、思い込む
- 違和感が溜まって転職を考える(?)
これ以外にもいろいろな手段が考えられるでしょう。 本エントリーではこのような組織における課題に対して、 個々人で解決に向けて動き、より良い組織をつくろうとする動きを紹介したいと思います。
どういう会社にしていくか
話は2014年秋に戻ります。
当時、私を含めて技術領域4部門のマネージャは「経営、組織のレイヤーで考えてどういう会社にしたいか」をお互い考えてみるお題を経営陣から受けました。
業務の合間にマネージャ同士でディスカッションを交わし「エンジニア文化」「海外展開」「営業利益」... などいろいろな切り口で案を出すものの、 いまいちしっくりくる考えにたどり着けません。そこで、私たちは課題解決型のアプローチで考えることにしました。 つまり、組織において「何が課題か」を考えて、それを解決してより良い組織にするアプローチです。
「開発速度を速くし続ける」「人事制度」「社内ルールの改定フロー」「サービスへの愛着をもっと増やす」... などさまざまな課題が挙げられました。 そんな中、私たちの結論としては、「組織における多くの問題はコミュニケーションの課題に帰着できるものが多い」というものでした。
たとえば
- 誰が何をやっているのかよく分からない
- 他部署でやっていることに興味を持てていない
- 熱を持って仕事に取り組めない
などが具体的な例(冒頭で例に挙げた話ですね)で挙がりましたが、 これらも結局身近な人たちとちゃんと話し、分かり合う場がそもそも圧倒的に少ないことに帰着するのでは?という仮説がありました。 この課題に対する解としては、「自分たちで社員同士で交流できる場を設け、運営する」と置きました。 私たちのオフィスにはキッチンもあり、交流しやすい環境が幸運にも用意されているので、それを自主的にもっと活用していくという考えです。 お酒や食べ物などを用意して社員同士で交流できる場、いわゆる「TGIF」と言うとシンプルかもしれませんね。
当初の考えからかなり現実的なラインに落ちていますが、これは言い換えれば 「マネージャとは言え、経営層ではない、あくまで一社員の立場で立ち向かい、自分たちで解決できそうな課題、およびその解決方法はなにか」を考えた結果とも言えます。ターゲットとその問題をシンプルに考えるようにした、というわけですね。
また、このような自分たちの考えを経営層に伝えたところ、「確かに現実的ないい落とし所だね」というフィードバックをもらったので、この路線で進めることにしました。
コンセプト
その後、マネージャたち議論を重ね、コンセプトを固めていきました。ポイントは2点です。
定期開催
実際、毎週自分たちで運営するのはかなり大変なのは目に見えていましたが、キッチンが他の勉強会やイベントで利用されていない限り、 可能なかぎり毎週行うことを目標にしました。 これは、予定が入っている人も「毎週やってるのなら今日くらい顔出してみるかな」と思ってもらえる状態に、 可能なかぎり多くの人が交流できる状態にしたい、という狙いです。 *1
会社に任せず、自分たちで場をつくる
こちらの方が重要に考えているのですが、「運営を会社に任せることはしない」というスタンスを崩さないようにしています。 たとえば今回の課題感も人事部と相談して予算をとってもらい、会社としてオフィシャルの定期イベントとして開催することも可能です。 ただ、その場合は「会社にやってもらってる」感が残ってしまい、「自分たちで場をつくり、環境を変え、より良い組織にしていく」という意味合いはかなり薄くなってしまいます。
とはいえ、最初は予算も全くない状態からのスタートになります。そこで
- マネージャ4人が自分たちで5000円づつ出し合い、2万円の予算から開始
- 会はカンパ制にし、予算が尽きるまで行う(残金は常に開示)
という方針を決定しました。
また、会の名前は覚えやすく理解しやすくするために 「Cookpad Lounge」という名前に、TGIFらしく金曜の夜に開催することとしました。
Cookpad Lounge
準備
方針が決まったので、具体的な準備をすすめていくことにします。 幸運にもビールサーバがオフィスに保管されていたので、見栄えが良さそうな(?)樽ビールをカクヤスで電話注文し、 塊肉などウリになるような食材を選定します。TODOリストは、Github Enterpriseでプロジェクトを作成し、Issueで管理を行いました。
図: 当時のTODOリスト
また、意識を高めるために公式サイトもMiddlemanで作ることにしました。 ここでの参加ボタンがどれだけ押されたかをGoogleAnalyticsでイベントトラッキングし、何人くらいが参加するかを予測し食材量の調整をすることにします。このへんの準備はエンジニアならではのところで、速いスピードで進んでいきました。
図: 現在の公式サイト
共用カメラ
準備が整ってくるとCTOも協力してくれ、Eyefiとデジカメを利用して、撮影したら即社内ポータルに公開される共用カメラシステムを空き時間にサクッと構築してくれました。 Cookpad Loungeなどラウンジやキッチンで撮影した内容がリアルタイムにイントラに共有されることで、コミュニケーションのきっかけや集客にも効果は見込めそうです。
社内告知
準備がある程度整った段階で、社内ポータルで告知を行いました。
ここでは、90名のスタッフが反応してくれました。全員参加してくれるわけではないことは理解しつつ、約1/3にあたるスタッフが反応してくれたこと、 また個別に他の経営陣からも期待の声を聞けたことは良かったです。
初回の開催
当日はかなりバタバタしましたが、結果として40~45人のスタッフが(中には同じオフィスのZaimの方も)参加してくれ、
- カンパ: 71,357円
- 支出: 26,137円
- 収支: 45,220円
という収支結果になり、無事2回目以降も開催することができることになりました。 中には準備や調理も手伝ってくれるスタッフも数人いて、第一回目としては成功といっても良さそうなものになったと思います。
振り返り
定期開催を行うには、常に開催ごとに振り返りを行い、問題点を改善していく必要があります。 私たちは毎回週明けの月曜に定例で30分KPTの時間を取ることにしました。例えば、第一回のKPTではこのような内容が出ました。
# Keep - 目標人数20人以上 - ビールサーバ # Problem - 肉の責任範囲が曖昧で当日の調理が遅れた - 飲み物がビールしか無いと辛い ## Try - メインの調理担当はIssueで管理する - ソフトドリンクを準備
リーンスタートアップではないですが、Cookpad LoungeもこのようにPDCAを細かく回しながら改善を続けていっています。
課題とその解決
さて、改善を行う中でも、すぐには解決できない、根深い問題も出てきます。
特定の部署の人が参加しない
毎回Cookpad Loungeの告知は社内ポータルで行うものの、バックオフィスや営業系の人たちは必ずしも日常的に社内ポータルに依存しない人たちが多く、 見逃されている、気づかれていないことが多くありました。「アレ、いつ開催されてるの?」「Lounge今日なんですか!?」なんて声もよく上がります。
参加者の層が偏っている
上で書いた問題と近い話ですが、発起人が技術領域のマネージャということもあるのか、参加者の7割前後は男性エンジニアになっています。 当然、特定の層に偏っていると他の職種の人たちや女性は参加しづらい雰囲気になってしまいます。
このような問題は、当初の「社員同士で交流できる場」の目的に反するものなので、今日現在もいろいろ手を打っています。
告知チャンネルを最適化
最初は社内ポータルに加え、全社メールを配信、件名の工夫も行い告知をおこしたこともありますが、 全社宛のMLは得てして「自分向けの情報」という実感を得ることができず見逃されていることが多いのも事実です。 そこで、オフィス内にいれば自然と情報が視界に入るようにビラを刷ってドアに貼るようにしました。 結果的に「ビラ見たから来たよ」と言ってもらえる事例も出てきて、一定の効果は出てきはじめています。
図: 実際に利用された町内会のお祭り風の告知ビラ
新しく入社した人に積極的に声掛け
クックパッドでは新しく入社した人に、他部署の先輩社員がメンターとして定期的に相談に乗る制度があります。 私自身も数人のメンティーがいるのですが、彼らは入社直後は頑張っても自分たちの部署の人たちとコミュニケーションを取ることでいっぱいであるはずなので、Cookpad Loungeのように他部署の人と話せる場は積極的に提示するようにしています。
まとめ
Cookpad Loungeの現状
ちょうどこのエントリが公開される週の金曜日に第12回目が開催される予定になっています。
最初の発起人4人のうち、1人はスペインへ出向、1人は子会社へ出向となりオリジナルメンバは私を含め2人になってしまいましたが、 「私も手伝います!」と言ってくれるメンバーも出てきて、運営を続けることができています。
まだまだ当初描いていた「組織における課題」を解決するな価値を出するところまで至っていませんが、それでも毎回新しい人が顔を出すようになってくれ、 少しづつ存在価値を出せてきたかなと思っています。
会社側からの参加
回を重ねるうちに「人事イベントを合同でやらせてくれませんか?」と打診されることもでてきました。 たとえば前回は学生たちの懇親会と合同で開催され、50人以上のスタッフが参加して非常に盛り上がりました。 また経営陣も定期的に参加してくれ、社員たちとざっくばらんに会話ができる機会も増えてきました。
このように、最初は個々人で始めたCookpad Loungeも、最近は会社の方からの動きも出てき始めました。
人が人を呼ぶ
少しづつ規模が大きくなることで、人が人を呼ぶ流れもでき始めています。 たとえば、最近入社したデザイナは「もっといろんな人と話したい」ということで運営側に回ってビラのデザインも行ってくれています。 また、最近入社された松浦弥太郎さんが パンケーキを振る舞ってくださり、それを目当てに今まで参加していなかった社員も参加する、のような流れも出てきました。
図: 牡蠣が大量にカンパされ、群がる人々
組織は生きもの
「組織」と言うと、自分とは無関係な、なんだか良く分からない、会社の片隅でこっそり出来上がる無機質なようなものという印象があるのではないでしょうか。 でも、実際は普段社内で見かける人たちのいろんな考えや狙い、想いを元に出来上がっているものです。 つまり、無機質なものではなく、生きもののように常にその形を変えて成長していくのが当然です。
クックパッドは2015年6月現在、300人前後のスタッフがいます。 これだけの数のスタッフが集まると、多かれ少なかれ「あれ?」と思うことも出てくることはやはり事実です。 とはいえ、そんな中で指を咥えてじっと見ているだけではなく、自分たちができる範囲で少しづつ動いていくことも可能です。 自分たちはCookpad Loungeという名のTGIFという形を取りましたが、他にもいろんな向き合い方はあるでしょう。
この読者の皆さんも「今の組織をもっと良くしたい」「特に問題意識はないけど、少なくとも今の状態を保ちたい」などと思う人も少なくないかと思います。 本エントリが、そのような人たちが「何か自分もやってみようかな」と思えるきっかけになれば幸いです。
*1:実際は、2015年6月現在、隔週開催を基本運営方針にしています